貸切バスの安全性向上について
平成24年に起きた関越自動車道での高速ツアーバス事故では、7人の命が奪われ、利用者や業界関係者に衝撃が走った。この事故を受け、国土交通省が打ち出した「安全・安心回復プラン」。そのプランは二つの柱で構成されており、一つが「貸切バスの安全性向上」である。
こちらのページでは具体的にどのような施策が行われるのか、まとめてみたい。
◆「貸切バスの安全性向上」についての施策とは?
これまでの貸切バス会社は、旅行会社の主催する「高速ツアーバス旅行」や「高速夜行バスの運行」などを請負ってバスを運行していたが、規制緩和を受けて新しく誕生した業態であったため、法整備や安全監視体制が未熟であったことと、熾烈なコストダウン競争のあおりを受けたことで、無理を承知でバスを走らせるなどの安全軽視の風潮が横行していた。
平成24年5月に起きた関越自動車道の事故後に行われた調査では、多くの貸切バス会社で法令違反が発覚し、高速ツアーバスへの信頼感が失われる結果となった。
これを受け、平成25年8月から「高速乗合バス」と「高速ツアーバス」が一本化されて誕生する「新高速乗合バス」では、失われた貸切バス会社への信頼を回復し、安全性を向上させる狙いをもって、様々なルール改正が行われる。
新高速乗合バスへ移行・一本化が行われた後は、貸切バス事業者は新高速乗合バス事業者(委託者)から新高速乗合バスの運行を受託するという立場での営業となり、受託するにあたっては、①運輸開始後3年が経過している。②過去1年間重大・悪質な法令違反で処分を受けていない。③過去の行政処分歴が一定以内。などの条件を満たすことが求められる。(国土交通省の(1)貸切バス事業者への管理の受委託制度の整備①よりhttp://www.mlit.go.jp/common/000219455.pdf)
主なルール改正は以下の通りである。
1) 新高速乗合バスに移行・参入した事業者に対しては、運輸安全マネジメントの実施が義務付けられ、移行後1年間を集中的なチェック期間とする。委託者・受託者が一体となって法令順守状況、安全管理体制の確認を行う。
この場合の委託者とは「新高速乗合バス事業者」、受託者とは「貸切バス会社」を指しており、これまでの高速ツアーバスのように、企画主催者である旅行会社がバスの運行に関する安全管理体制は委託された貸切バス会社に任せ切りという事態を是正し、安全運行の責任は新高速乗合バスが負うことになり、交通事故などが起きた際の被害者への対応は新高速乗合バスが責任を持つということになる。
「運輸安全マネジメント」の詳細については、国土交通省のHP http://www.mlit.go.jp/unyuanzen/outline.htmlを参照のこと。
2) 法令遵守徹底のため、新高速乗合バス会社(委託者)の貸切バス会社(受託者)営業所への訪問調査を義務付ける。
3) 長距離運行時の過労運転防止のため、ワンマン運行の上限距離を定める。関越自動車道の事故以前は一人の運転手が670キロを運転できたが、原則として昼間は500キロ、夜間は400キロに変更された。これを越える場合は交代の運転手を配置することが義務付けられた。(このルール変更は先行して平成24年7月から先行して適用開始されている。)
4) 交替運転者が配置されていない状況での長距離・長時間運転を行う場合には、ドライブレコーダーによる運行管理の実施を義務付ける。
5) 新高速乗合バス会社と委託を受ける貸切バス会社は代表者及び運転者とは別に運行管理者を1名以上、運行の管理を行う営業所に配置すること
。6) 委託を受ける貸切バス会社が新高速乗合バス会社からの委託によって運行する実働車両は直営にでの実働車両に対し(ア)1年当たり 直営車両数の1倍以内(委託者の乗合バス事業に係る一定期間の法令遵守状況に応じ、2倍以内)。(イ)1日当たり:直営車両数の2倍以内であること。(国土交通省HP http://www.mlit.go.jp/common/000219455.pdf より)
7) 受託者である貸切バス会社から第三者へ再委託を行うことは禁止。
◆まとめ
以上が新高速乗合バスへ移行・一本化された際に貸切バス会社へ適用となる主な施策である。
これらの新しいルールが整備されたとしても、実際にルールが守られてなくては意味がない。実際に制度が開始されてから、新高速乗合バス会社と貸切バス会社が一体となって安全管理体制を作り上げられるかどうか、利用者側も注視していく必要があるだろう。