低価格と利便性の良さで、近年利用者が急増していた高速ツアーバス。年間の利用者は600万人に達するとも言われる。しかし、平成24年に関越自動車道で7人の死亡者が出る大きな事故が起きたことで、高速ツアーバスの問題点が浮き彫りとなった。

この事故を受けて、国は高速バス・貸切バスの「安全・安心回復プラン」を策定。この「安全・安心プラン」には二つの柱があり、その一つが高速ツアーバスと高速乗合バスの「新高速乗合バスへの移行と一本化」である。

こちらでは、「新高速乗合バスへの移行と一本化」とは具体的にどういった施策が行われるのか、詳しくご説明したい。

◆「新高速乗合バスへの移行と一本化」とはなにか?

今まで「高速バス」というひとくくりにされていた「高速ツアーバス」と「高速乗合バス」であるが、現行の高速ツアーバスは平成25年7月末までに「新高速乗合バス」へと業態を移行することが必要になり。8月以降には「高速ツアーバス」としての営業は認められなくなる

新高速乗合バス事業に参入するには、事業許可をとらなければならなくなる。事業許可をとるには、「①バス会社(貸切バス会社も)が直接利用者と契約して運行を行う。」または、「②旅行会社が自前でバスを所有し、バスの事業許可を取得する。」という二つの方法のいずれかの業態をとることになる。現行の高速乗合バス業者は①にあてはまるが、高速ツアーバス業者は新業態への移行が必要だ。

◆新高速乗合バスへの移行で何が変わるか?

1) 新高速乗合バス業者は利用者と直接「乗合運送契約(道路運送法に基づく)」を結ぶことになる。新高速乗合バス業者(委託者)が貸切バス業者(受託者)へ運行の委託をする際は「国土交通大臣の許可」が必要になり、委託者である新高速乗合バス業者が安全への責任を負うことになる。

2) 新高速乗合バス会社が貸切バス会社へ運行を委託する場合、委託者の営む新高速乗合バス事業の原則2分の1以内とされる。(3分の2以内まで認められる場合もあり)また、受託者が更に第三者へ再委託することは禁止される。

平成25年8月以前の「高速ツアーバス」は、旅行会社が企画主催した「バス旅行」や「長距離夜行バス」などを、貸切バス会社に運行を依頼して行っていた。この場合、利用者は旅行会社と旅行契約を結んでおり、旅行会社はバス運行に関して、安全性の責任は負っていなかった

そのため、高速ツアーバスは安全性への取り組みが軽視されてきたと言われてきたが、新高速乗合バスへの移行・一本化により、運行を行う者が安全の責任を負うということが明確になり、責任の所在をはっきりさせることで安全対策への取り組みを活発化させる狙いがある。

3)移行した業者は「運輸安全マネジメント」の実施が義務付けられる。特に移行後1年間は法令遵守の状況調査や安全管理体制の確認などが集中的に行われる期間となる。 (「運輸安全マネジメント」については、国土交通省HP参照のこと。http://www.mlit.go.jp/unyuanzen/outline.html

4)関越自動車道の事故が起きた際、一人の運転手は670キロまで運転できたが、この距離が見直され、原則として昼間は500キロ、夜間は400キロに変更となった。この距離を越えて運行する場合は運転手の交代要員を配置することが義務付けられた。(これは新高速乗合バスへの一本化を待たずに、平成24年7月から先行して適用されている。)

5)現行の高速乗合バスは、規制が厳しく「増便を行う」「運賃を改定する」といった場合には、実施の30日前までに事前に届出を行う必要があった。これを新高速乗合バスへ一本化した後は、「増便」「運賃改定」の事前届出が7日前と大幅に短縮される。

また、これまでは固定額での届出であった運賃の設定も、幅を持たせた運賃設定での届出も可能とし、需要に応じて曜日単位・便単位で割引運賃などの設定が行えるようになるなど、現行の高速ツアーバスの利点を新高速乗合バスへも適用できるようにルールが改正された。

◆まとめ

以上が高速乗合バス・高速ツアーバスの「新高速乗合バス」への移行・一本化の主な内容と変更点である。

これらの取り組みで安全性が向上することが利用者にとっての一番のメリットである。反面、これまで安全リスクを軽視してまで推し進めてきた低価格料金が値上がりするということもあるかもしれない。

しかし適切な安全コストを料金に反映させての値上げであれば、利用者も受容することが必要であろう。

逆に高速乗合バスでは新しい運賃に改定するまでの時間が短縮され、固定額に加え幅をもった料金設定も可能になることで、今まで以上にお得な値段で乗車できる割引制度などの充実も期待される。