高速・貸切バスの安全・安心回復プランとは

 

平成24年のゴールデンウィークに、高速ツアーバスが関越自動車道藤岡ジャンクション付近で死亡者7人という重大事故を起こしたことはまだ記憶に新しい。

この事故によって高まった高速ツアーバスに対する不信感、不安感を払拭し、再発を防止するために国土交通省は平成25年・26年度の2年間で「高速・貸切バス安全・安心回復プラン」を迅速に実施するとしている。

国土交通省の「高速・貸切バス安全・安心回復プラン」とはなにか、実施に至った経緯、その具体的内容をこちらで詳しくご紹介したい。

◆「高速・貸切バス安全・安心回復プラン」実施の背景

平成12年に貸切バス事業が規制緩和されたことで、年間を通じて高速ツアーバスの運行が可能になり、新規参入が相次いだ。高速ツアーバス市場は急拡大し、平成17年に約23万人だった高速ツアーバス利用者数は平成22年には600万人にまで増加したと言われている。(高速ツアーバス連絡協議会調べhttp://www.mlit.go.jp/common/000136238.pdf)

利用者にとっては、移動手段の低価格化や選択肢の広がりなどの恩恵も多かったが、平成24年5月に関越自動車道で発生した高速ツアーバス事故は、激しいコストダウン競争によるバス運転手の労働条件の悪化や法令違反、バス会社の安全対策の立ち遅れなどを露呈した。

しかし、バス業界の中には事故以前より「規制緩和により熾烈な競争を強いられたことで、高速ツアーバスの安全対策が立ち遅れているのではないか」という危機感があったようだ

このような状況の中で起きた高速ツアーバスの重大事故を受け、国が打ち出したのが「高速・貸切バス安全・安心回復プラン」である。

◆「高速・貸切バス安全・安心回復プラン」の中身は?

「高速・貸切バス安全・安心回復プラン」では「新高速乗合バスへの移行・一本化」「貸切バスの安全性向上」を到達目標に掲げている。主な具体的取り組みは以下のとおりである。

<新高速乗合バスへの移行・一本化について>

新高速乗合バスは事業許可制になっており、バス事業者が利用者と直接契約して運行を行うか、旅行会社がバス事業許可を取得し自らバスを所有するか、というどちらかの形態をとることになる。現在運行されている高速ツアーバスという業態は姿を消すことになる。

<貸切バスの安全性向上について>

関越道の事故以前は一人の運転手が運転できる距離は670キロだったが、この距離が見直されて、原則昼間は500キロ、夜間は400キロに変更された。この距離を越える場合は複数の運転手を配置し、交替できるようにすることが義務付けられた。

また、これまで事業所への立ち入り検査のみだった監査体制を見直し、バスターミナルでの抜き打ち検査も加えることになった。大きなターミナルで一度に複数のバス会社を調べることができ、違反を隠しにくくするメリットがある。また、重大な法令違反が見つかった場合の処分も厳格化される。

◆安全・安心回復プランが利用者に与える影響は?

現在高速ツアーバスを企画主催している旅行会社が今後「新高速乗合バス」事業者として営業を続けるためには、自前のバスを所有しそれを管理するための車庫なども必要になり、大きなコストが掛かる。そのため、新制度への移行を契機に、業界から撤退する会社も出るだろうと予測されます。

また、これまでよりも料金が値上がりする可能性もある。これまでは安全性よりも効率コストダウンを優先して低価格料金の設定を可能にしてきたが、これからは安全コストを適切に運賃に盛り込んでいく方針が打ち出されているためである。

しかし、利用者側としても安全性よりコストダウンを優先した乗り物に自分の命を預けることは賢い選択とは言えないだろう。安全面を十分に充実させた上で、適正な価格を提示されるようになることは市場の健全な発展には欠かせない。

◆まとめ

規制緩和からの急速な市場拡大に、法整備や安全面の監査体制などが取り残される形となっていた高速ツアーバス業界であったが、今後は「新高速乗合バス」という新たな業態で 再スタートが切られる。今後は国土交通省の打ち出した「安全・安心回復プラン」をどこまで徹底することができるのか、注視していく必要がある。

別項で、「安全・安心回復プラン」の中身について、さらに詳しくまとめてみたい。